百年前の私たち――雑書から見る男と女 (講談社現代新書)

百年前の私たち――雑書から見る男と女 (講談社現代新書)

 日比嘉高の詳細な調査によると、近代日本に集中的に紹介されたのは、イギリスの新理想主義学派の哲学者トーマス・グリーンの説く「自我実現説」だった。その説では<絶対の自我>が実現したときには<善>や<公共性>の要素も実現するものとされていたから、儒教道徳とも接続可能と判断されたので、時の権力によって明治三十年代半ばには中学校の「修身」に組み込まれていった。それは「個人主義的傾向」に目覚めはじめた青年のありかたを「乱れ」と見なして、「自我実現説」の一要素でもある「人格の陶冶」によって押さえ込もうとする目論見によっていた。ところがこれは逆効果となって、青年の「個人主義的傾向」をますます助長することになった。

 孫引き。明治の「私」探しゲーム。
 「最近の若者は〜」という言説に対応するには、明治期を持ち出せば大抵事足りる。