言葉をとどけること。誤配させること。

  • まえがき

 福島県の大野事件、奈良県の大淀事件と『医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か』において述べられていた人的リソース不足と業務上過失致死の問題がクローズアップされている*1。今回、考えてみたいのはそういった「事件」に対する「世間」の反応を変えることについてである。
 大淀事件に対するブログなどのコメントを斜め読みしてみると、「師」がついている職業だからとか、感情を考えろといったロジックで病院を非難する人は多い。
 逆に、不幸な事故であるが、過誤ではなかったという医師の意見も見られる。

  • 背景は?

 医療がサービス業であり「消費者中心の医療」であるべきなのか、それとも社会的資本であり産業とは別個の倫理が求められるのかという問いは棚上げするにしても、こういった受療者と提供者の価値観の相異そのものは好ましいものではない。
 では、この相異が生まれる背景は何であろうか。医療側の立場から考えるなら、理由は二つあると思う。一つは事実誤認。もう一つは確率的な思考ができないことである。
 例えば今回の事件では、マスコミによる報道とは随分異なる「真相」が2ch経由で流れている。もちろんソースがソースなので信頼はできないし、それに拠った立論をすることも危険ではあるのだが、マスコミ報道が事実と異なっている例がいくつも存在するのは周知のことである。感情に基づく報道が事実を歪める危険性については意識しておいた方がいいだろう*2
 加えて、アクセス、クオリティ、コストの三つを高いレベルで維持することの不可能性というもっと巨大な経済的な要因がある*3
 二つ目について。事故と過誤の区別がつかないという風に言い換えてみることもできる。

  • 医療事故(いりょうじこ、Medical accident)とは、医療において生じた事故すべての事象。
  • 医療過誤(いりょうかご、Medical malpractice)、医療ミスとは、主に医療従事者側等の人的または物的な過失のこと。またはそれら過失によって患者側に生じた人身事故のこと。

医療事故 - Wikipedia

 どちらも原因究明を行い再発防止策を講じる必要がある。しかし、責任が問われるべきは後者のひどい例についてである。
 医学というのは基本的に確率の世界であり、そこには100%という数字はありえない*4。だからこそ、それを100%に近づけようと努力するのだと私は思っている。
 逆に、こういった主張をすることが身内びいきである等の批判があれば、そのフィードバックを歓迎して、理性的なコミュニケーションを取り合えることが重要だろう。

  • 必要なのは架橋!

 つまり、情報を共有した上で互いの価値観をどう理解しあうのかということである。

医師側の説明と患者側の勉強があわされば少しはマシだと思っているのですが

  • 方法

 ここからは、その具体的な方法を考えてみる。

    • マスコミへ
      • インタビュー

 少なくとも、インタビューに答える形は無駄。手元に本がないので確認ができないのだが、たしか立花隆の本に「〜について、どう思われますか」と聞いてくる記者はダメだという下りがあった。インタビューは結論ありきでするものなのである。

      • 公開討論

 イメージ戦略が重要である*5。 

      • 出版

 何度も参照するが『医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か』など、良書が出ている。
 また、研修医というものに対する世間のイメージ形成に『ブラックジャックによろしく』が大いに影響している。それが今の臨床研修必修化の際の最低賃金を設定する際に多少なりとも貢献したらしい。物語に流されすぎない実情を扱ったマンガが増えればいいのではないかと思う*6。政治だと「弘兼憲史さんの漫画『加治隆介の議』テレビドラマ化を実現する議員の会」なんてのもあった。

 ベストは電通に金を出して、「スーパードクター」一辺倒のバラエティ番組へのカウンターパートを作ることだと思うが、そんな金を誰が出すのだという問題がある。マスコミへの働きかけは個人でどうにかなるものではない。

    • ウェブ
      • 2ch

 「板違い」「スレ違い」という言葉の存在する2chで、意見を異にする人たちの交流が起こることは考えにくい。守秘義務を持つ人々が情報を共有するには役立つだろうが、「世間」を変えることはできないだろう。
 また、後で書くネットイナゴの温床にもなっている。

 なれあいの場所であり、基本的に誤配が起こらないように設計されている*7
 ニュースに対する意見を書くこともできるが、その温度差とコメの噛み合わなさが激しい。 

      • blog

 発信ということに関しては、2006-10-18ホッテントリになったことに、希望があるんじゃないかと思う。
 しかし、コメント欄から議論をすることには注意を要する。失敗している例がいくつも存在する。これもネットイナゴの一例だろう。
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://blog.livedoor.jp/katumi707/archives/50990450.html
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2006/08/89_11f0.html
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://sankei.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_08bd.html%23comment-3390427
 言いたいことは分からなくもないが、こういった行動がblogの書き手の行動変容を促すことにつながるだろうか。むしろ医師のイメージを悪くすることにつながっていそうである。
 表現と表出の違いをわきまえた方がいいと思う。

表現とは、言動により、相手に自分の期待する言動を起こさせる事。
表出とは、ただ単に言動によって感情的カタルシスを得る事。
http://www.mypress.jp/v2_writers/johndeai/story/?story_id=1238927

 つまり、言いっぱなしではなく、どういう反応が返ってくるのかを考えて行動すべきだということ。

  • 結論

 現状を良い方向へ変えるには、情報を発信する必要がある。
 mixi2chはタコツボ化しており、能動的な情報発信とコミュニケーションには向かない。
 blogなら何かできるのかも。

  • 追記

その他の例として。
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/STITP/