『「かわいい」論 (ちくま新書)』

「かわいい」という概念を、文献を紐解くことで時間的に遡り、外国語との比較や海外事情をふまえてグローバリズム的に語る。更には、アンケート、雑誌、おやくそくの秋葉原・池袋・歌舞伎町巡礼による日本での現状分析も行ったりすることで、そのおぼろげなる輪郭を浮かび上がらせている。
結論として見えてくるのは、「かわいい」自体の性質や、その受容・使用が特にジェンダーによって異なっていること、そしてなによりも、その裏に潜むグロテスクであった。
最初、読んでいたときは、こういうオタクグローバリズムの理論書か?と思ったけど、そうではない。少なくともエピローグにおいて、アウシュビッツを例に出して「かわいい」を無批判に礼賛するのはどうなの、と問いかけることで、随分と毒をもった本になっている。
「かわいい」が反転したグロテスクの例に、グレムリンはどうか、と思ったがふたごとか、アウシュビッツの壁に描かれたネコには、確かに嫌な気分にさせられた。
『純潔の地に、獣たれ童貞の徒よ』の「動物」は、パロディーとして読めたことから考えても、この本は良く出来ている。
だからといってすぐに「美少女はいても、女子はいない部屋」をどうにかする訳でもないんだけど。