私の読んできた範囲では、日本で最も美しいSFを書く作家の最新作。ついに「棚ぼた」を返上した日記でのお茶目さと小説の落差に驚くんだが、それはまた別の話。
 『グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)』の前日譚が入った短編集である。
 「夏の硝視体」のかもしだす匂い、「ラキッド・ガール」でのアイデンティティをゆさぶる皮膚感覚、「クローゼット」での文字通り死ぬほどの痛み、「魔述師」での唾液腺を刺激する料理の味、「蜘蛛の王」では圧倒的な恐怖をもたらす口のビジュアル*1
 読むことで五感をこれでもかという程に刺激されてしまう。
 作品上で重要なモチーフになっている、ヴァーチャルリアリティ上で物理量を感覚に転化する工程をすっかり省く「官能素」が凝集した小説である。
 今年度No.1はこれ。
追記:ランキング

*1:なんとなく2006-09-29 - 雑記帳で書こうとしていたこと