天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

天涯の砦 (ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション)

軌道ステーションのかけらを舞台に繰り広げられる脱出劇。
機械関連の薀蓄が全く物語から浮かない技術は、円熟の域に達していると思う。『渇きの海』にも比肩できるんじゃないだろうか。
本作にはこれまでの小川作品に必ず出てきたような、前向きでいい人は登場しない。全員がそれなりにロクデナシな要素を持ちつつ、自分が助かるためという一点で協力し、互いに争う。そういう意味で『ギャルナフカの迷宮』からまた一つレベルアップしたのが伝わってくる*1
一つ難点を言うと、そのロクデナシな所が最後になって解消されるのが、少し唐突に感じられた。特に功の扱いとか。もう少し出発点と着地点の間に書込みがあれば納得できたのかもしれない。
むしろ、作者の「成長」の方がエンタメしていたりもする。

*1:あとがきには「書いたことのないものを書きました」とある。