「太陽の塔」 森見登美彦

クビシメロマンチスト 人間失格・零崎人識 (講談社ノベルス)」みたく京都の地名がわんさか出てきて、主人公の下宿も4畳半である。この辺りは実際に知っていると更に楽しめるのかもしれない。私の守備範囲は、太陽の塔民族博物館ぐらいである。
おそらくは、作者の日常に幻想文学風味を加えてこの作品は出来上がっているのだろう。「男汁」の様なホモソーシャル島宇宙にいるということは、それなりに気恥ずかしくもあり、楽しくもある。
なんとも身につまされたのは「あ、仮面ライダー*1が始まってる」という科白である。複数人で夜更かしすると、しばしば聞かれることになる。
「膨らみきった妄想が京都の街を飛び跳ねる」描写はなかなかに美しい。この路線で骨董屋をめぐる静謐な物語を書くなら読んでみたい、と思う。作者に、法界悋気なしで物語を構築する気があるかどうかは不明であるが。

*1:別にその他のテレ朝番組でも可