『無痛』

こういった内容の本が出版可能なのであれば、狂鬼人間が欠番になることはないと思う。非常に紋切り型な刑法三十九条批判の物語だった。
これに加えて全編に通底するテーマは、治せない病気があるということである。これは、論理的に考れば当然のこと*1。ただしそれを一歩進めて、治療という前提には何の意味もないと言ってしまっているのには、抵抗があった。またその根拠として、がんはともかく、人を殺す人相というものを出してきたのは、不用意ではないかなぁ。
むかし野村監督が、一年の試合のうちで三分の一は、監督が何もしなくても勝てる。三分の一は、何をしても負ける。残り三分の一は、監督の手腕次第である、みたいなことを言っていた。割合はともかくとして、介入の効果はゼロではないと思いたい。
ちなみに、作品そのものの質とは関係ないが、どのような診断技術であっても感度と特異度というものが存在するので、単体で100%ということはありえない。
ついでに、反社会性の強い本として『奇形全書』『拷問の社会史』『悪魔の辞典』と並べたのは、三段オチだったりするんだろうか?

*1:治療の有無と治癒の可能性で4つの象限が存在する。